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この会社のビジネスとは?
ストック型ビジネスモデル
NSグループ(実質的には子会社の日本セーフティー)は家賃債務保証事業を展開しています。このビジネスは極めてシンプルで強力です:
- 入居者が賃貸契約を結ぶ際、連帯保証人の代わりとして同社が保証人になる
- 入居者は初回保証料(家賃の数十%)+ 月額保証料(家賃の数%)を支払う
- 入居者が家賃を滞納した場合、同社が代位弁済し、後日入居者から回収
このビジネスモデルの最大の特徴は「ストック収益」です。一度契約を獲得すれば、入居者が退去するまで毎月保証料が入り続けます。しかも、不動産賃貸という性質上、入居期間は平均数年に及ぶため、1契約あたりのLTV(顧客生涯価値)が非常に高いのです。
蓄積されたデータが生む参入障壁
さらに重要なのは、データの蓄積による競争優位性です:
- 1997年の創業以来、28年間にわたって滞納データ、回収データを蓄積
- このデータをAIモデルに活用し、審査・回収業務を高度化
- 競合他社には真似できない「誰に貸せば回収できるか」の判断精度
届出書には「競合他社には獲得困難な滞納情報や取扱店との連携情報等、豊富なデータを蓄積しており、AIモデルを活用することで模倣困難な競争優位性を築いている」と明記されています。
つまり、単なる保証業務ではなく、データドリブンな与信ビジネスなのです。この構造は簡単には真似できません。
独自のポジショニング:Small領域への特化
同社の戦略的ポジショニングも見逃せません:
- 物件管理戸数が相対的に少ない不動産管理会社(Small領域)と深い関係性
- この領域では「きめ細かい対応」が求められる一方、競争が相対的に穏やか
- 結果として営業利益率31%という高収益性を実現
大手競合(例:全国保証、日本賃貸保証など)は、大型物件管理会社向けに薄利多売で展開する傾向があります。NSグループはあえてそこを避け、中小不動産管理会社向けに「第二保証会社」として選ばれる戦略を取っています。
財務安定性ときめ細かいサービスを武器に、価格競争に巻き込まれずに高い収益性を維持できているのです。
業績に関するファクトデータ
業績の推移(2023年→2024年)
| 項目 | 2023年 | 2024年 | 成長率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 23,902百万円 | 26,348百万円 | +10.2% |
| 営業利益 | 7,555百万円 | 9,240百万円 | +22.3% |
| 当期純利益 | 2,984百万円 | 4,679百万円 | +56.8% |
| 営業利益率 | 31.6% | 35.1% | +3.5pt |
注目ポイント:
- 売上高は10%成長と堅調
- 営業利益は22%成長と売上以上に伸びている(スケールメリット)
- 純利益は57%成長(営業外費用の減少が寄与)
- 営業利益率31→35%への向上は、事業の質的改善を示す
2025年Q3(9ヶ月)累計実績
| 項目 | 2024年Q3 | 2025年Q3 | 成長率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 19,531百万円 | 21,517百万円 | +10.2% |
| 営業利益 | 6,649百万円 | 7,517百万円 | +13.1% |
| 四半期純利益 | 2,577百万円 | 3,766百万円 | +46.1% |
2025年も二桁成長を維持しています。 一過性のブームではなく、構造的な成長トレンドが続いていることが分かります。
KPIの積み上がり
届出書では以下のKPIを重視すると明記されています:
- 申込件数
- 契約件数
- 代位弁済時の債権回収率
- 調整後EBITDA
特に「契約件数」がストック収益の源泉です。契約件数が積み上がれば、毎月の保証料収入が自動的に増えていく構造になっています。
過去の成長トレンドを見ると、取扱店登録数も順調に増加:
- 2006年:10,000店突破
- 2010年:20,000店突破
- 2014年:30,000店突破
- 2019年:50,000店突破
ネットワーク効果も働いており、取扱店が増えれば増えるほど、契約獲得機会が増える構造です。
財務健全性
- 自己資本比率: 2024年末で約34%(2023年末約18% → 大幅改善)
- 有利子負債: 2024年末で9,100百万円(2023年末11,000百万円 → 削減)
- 営業キャッシュフロー: 安定的にプラス
ベインキャピタルの支援下で財務改善が進んでおり、上場後は無借金経営も視野に入る水準です。
業績予想(今後の見通し)
届出書には具体的な業績予想は記載されていませんが、以下の要素から今後も二桁成長が続く可能性が高いと考えられます:
1. 賃貸保証市場の構造的拡大
- 民法改正(2020年4月)により、個人保証に極度額設定が義務化
- 連帯保証人を立てることが困難になり、保証会社利用が実質必須に
- 市場規模は年率5-10%で拡大中
2. 競合状況
家賃債務保証市場の主要プレイヤー:
- 全国保証(東証プライム上場、時価総額約1,500億円)
- 日本賃貸保証(JRG、非上場)
- Casa(上場廃止)
- フォーシーズ(非上場)
NSグループの差別化ポイント:
- Small領域への特化で競争を回避
- AIを活用した審査・回収の高度化
- 高い審査通過率と高い回収率の両立
全国保証が時価総額1,500億円で営業利益率20%台前半であるのに対し、NSグループは営業利益率31-35%と高収益。質的には全国保証を上回ると評価できます。
3. 成長戦略
届出書に記載されている今後の方針:
- 顧客基盤の拡大(新規取扱店の開拓)
- 既存顧客との関係深化(LTV向上)
- AI・デジタル化による業務効率化
- 新サービス開発(保証以外の周辺サービス)
事業構造(業界背景・競合構造)
社会的背景:連帯保証人の減少
日本では長らく「賃貸契約には連帯保証人が必須」という慣習がありました。しかし:
- 核家族化・単身世帯の増加
- 高齢化による保証人のなり手不足
- 2020年民法改正で個人保証に極度額設定が義務化
これにより、連帯保証人を立てることが実質的に困難になりました。不動産オーナーにとっては「家賃滞納リスク」が深刻な問題であり、保証会社の利用が必須インフラ化しています。
競合他社との違い:なぜ高収益なのか?
一般的に、家賃債務保証業界は以下の特徴があります:
- 初期費用型の競争:大手は初回保証料を下げて契約を獲得する傾向
- 代位弁済リスク:景気悪化時に代位弁済が急増し、業績が悪化するリスク
- 価格競争の激化:大型物件管理会社向けは薄利多売化
NSグループが高収益を維持できる理由:
-
Small領域への特化 → 大手が参入しにくい「中小不動産管理会社」向けに集中 → 価格競争が相対的に穏やか
-
第二保証会社としてのポジション → 財務安定性を重視する顧客から選ばれる → 販売手数料を高く設定しても受け入れられる
-
高い債権回収率 → 創業以来28年間のデータ蓄積 → AI活用による回収業務の高度化 → 「審査通過率が高い」のに「代位弁済率は競合並み」「回収率は競合以上」
-
分別送金サービス → 家賃と管理料を自動で分けて送金するサービス → 競合他社にはほとんど展開されていない独自機能 → 顧客ロイヤルティを高める
代替リスクの低さ
「家賃債務保証」というサービスは、代替手段がほとんどありません:
- 個人保証人:高齢化・核家族化で難しい
- 公的保証制度:存在しない
- 自社保証:不動産オーナーが自らリスクを取ることは現実的でない
したがって、市場そのものが消滅するリスクは極めて低いと言えます。
需給構造(公募・売出・OA・ロックアップ)
今回のIPOの概要
- 公募:0株(なし)
- 売出:23,129,900株
- 国内:16,480,000株
- 海外:6,649,900株
- OA(オーバーアロットメント):3,469,400株
- 売出人:BCPE Say Cayman, L.P. / BCPE Say Cayman2, L.P.(ベインキャピタル系)
需給分析
売出規模: 仮条件中央値1,460円として、売出総額は約338億円(OA含む)。超大型案件です。
吸収金額の評価: 同時期の他IPO案件と比較しても、プライム市場案件としては最大級の規模。市場の吸収力が試される案件と言えます。
ロックアップ: 届出書には詳細なロックアップ情報の記載がありませんが、一般的にPE(プライベート・エクイティ)ファンドの売出案件では:
- 売出後も一定比率の株式を保有し続けるケース が多い
- 上場後180日程度のロックアップが設定されるのが通例
需給リスク:
-
売出のみ(公募なし) → 企業への資金流入なし → 成長投資に充てる資金調達ではなく、株主の出口戦略
-
ベインキャピタルの売却 → PEファンドは投資回収を目的としているため、将来的な追加売却の可能性
-
大型案件による需給圧迫 → 初値形成後の需給バランスには注意が必要
ポジティブ要素:
- プライム市場上場により、機関投資家の買いが期待できる
- 高収益・高ROE企業として評価されやすい
- ストック型ビジネスモデルは機関投資家に人気
仮条件から見たレンジ分析(PER・市場吸収率)
想定時価総額(仮条件:1,440円~1,480円)
発行済株式総数:52,155,600株 想定時価総額:
- 下限1,440円:約751億円
- 上限1,480円:約772億円
PER分析
2024年12月期実績:
- 当期純利益:4,679百万円
- EPS(1株利益):4,679百万円 ÷ 52,155,600株 = 89.7円
仮条件ベースのPER:
- 下限1,440円:PER 16.1倍
- 上限1,480円:PER 16.5倍
類似企業比較
全国保証(7164):
- 時価総額:約1,500億円
- 営業利益率:20%台前半
- PER:15-20倍程度(市場環境による)
NSグループとの比較:
- NSグループの営業利益率31-35%は全国保証を大きく上回る
- 成長率も10%超と堅調
- PER 16倍台は割安~適正水準と評価できる
PSR分析
2024年売上高:26,348百万円 PSR(株価売上高倍率):
- 下限1,440円:PSR 2.85倍
- 上限1,480円:PSR 3.14倍
SaaS企業などではPSR 10倍超も珍しくありませんが、金融保証業としてはやや高めの水準です。ただし、営業利益率30%超の高収益性を考慮すれば納得できる範囲です。
市場吸収率
東証プライム市場の平均日次売買代金:約3兆円
今回のIPO吸収金額:約338億円(OA含む)
吸収率:約1.1%
評価: 大型案件ではあるものの、プライム市場の流動性からすれば吸収可能な範囲。ただし、同時期に他の大型IPOが重なると需給悪化の懸念があります。
条件付き株価レンジ(適正価格の考察)
シナリオ別の理論株価
ベースケース(確率60%)
前提:
- 今後3年間の成長率:年率10%
- 営業利益率:35%を維持
- PER:17倍(成長性を加味)
2027年予想EPS:
- 2024年EPS 89.7円 × 1.1^3 = 119円
- 理論株価:119円 × 17倍 = 2,023円
仮条件上限1,480円から:
- 上昇余地:+37%
強気シナリオ(確率25%)
前提:
- 成長率:年率15%(市場シェア拡大)
- 営業利益率:38%に改善(AI活用の成果)
- PER:20倍(成長株評価)
2027年予想EPS:
- 2024年EPS 89.7円 × 1.15^3 × (38/35) = 157円
- 理論株価:157円 × 20倍 = 3,140円
仮条件上限1,480円から:
- 上昇余地:+112%
弱気シナリオ(確率15%)
前提:
- 成長率:年率5%(競争激化)
- 営業利益率:30%に低下
- PER:14倍(成熟企業評価)
2027年予想EPS:
- 2024年EPS 89.7円 × 1.05^3 × (30/35) = 88円
- 理論株価:88円 × 14倍 = 1,232円
仮条件上限1,480円から:
- 下落リスク:-17%
期待値加重平均
期待株価: = 2,023円 × 60% + 3,140円 × 25% + 1,232円 × 15% = 1,214円 + 785円 + 185円 = 2,184円
結論: 仮条件上限1,480円は、期待値ベースで見れば約33%の上昇余地があると試算されます。
ただし、以下のリスク要因には注意が必要です:
- 大型売出による需給悪化
- ベインキャピタルの追加売却懸念
- 競合激化による利益率低下
- 景気後退による代位弁済増加
重要指標
NSグループに投資する場合、以下の指標を定期的にチェックすることが重要です。
1. 契約件数・取扱店数
なぜ重要か: ストック収益の源泉。契約件数が増えれば、自動的に毎月の保証料収入が増える。
目安:
- 前年同期比+10%以上の成長を維持できているか
- 取扱店数も順調に増加しているか
2. 営業利益率
なぜ重要か: 競争優位性の指標。利益率が低下すれば、価格競争に巻き込まれている証拠。
目安:
- 30%以上を維持できているか
- 四半期ごとの推移で改善傾向にあるか
3. 代位弁済率・債権回収率
なぜ重要か: 信用リスク管理の健全性を示す。代位弁済率が上昇すれば、審査基準の緩和や景気悪化の影響を受けている可能性。
目安:
- 代位弁済率は業界平均(2-3%程度)を維持しているか
- 回収率は70%以上を維持できているか
4. ROE(自己資本利益率)
なぜ重要か: 資本効率の指標。高ROEは株主還元余力を示す。
目安:
- ROE 20%以上を維持できているか
- 同業他社と比較して優位性があるか
5. 有利子負債の推移
なぜ重要か: 財務健全性の指標。IPO後は無借金化を目指すべき。
目安:
- IPO後1-2年以内に有利子負債ゼロを達成できるか
- フリーキャッシュフローが安定的にプラスか
6. 配当性向
なぜ重要か: 株主還元姿勢の指標。ストック型ビジネスは高配当が可能。
目安:
- 配当性向30-50%を目指しているか
- 自社株買いなど柔軟な株主還元策を実施しているか
まとめ考察
投資判断のポイント
NSグループIPOの魅力:
-
ストック型ビジネスモデルの確立 → 契約件数の積み上がりが収益の安定性を生む
-
営業利益率31-35%の高収益体質 → 競合他社(全国保証20%台)を大きく上回る
-
データ蓄積による参入障壁 → 28年間の滞納・回収データ + AI活用
-
市場の構造的成長 → 民法改正により保証会社利用が実質必須化
-
PER 16倍台は割安~適正水準 → 成長性・収益性を考慮すれば妥当
リスク要因:
-
大型売出による需給悪化 → 338億円の吸収金額は市場の重石になる可能性
-
PEファンドの売却懸念 → ベインキャピタルの追加売却が株価の上値を抑える
-
競争激化のリスク → AI技術の進化で新規参入障壁が下がる可能性
-
景気敏感性 → 不況時には代位弁済が急増し、業績悪化の懸念
投資戦略の提案
長期投資家向け:
- 初値形成後の需給悪化を見極めてからエントリー
- 配当利回り2-3%が見込める水準(1,500-2,000円)で拾う
- 3-5年スパンで利益を目指すのにはいいかも
短期トレーダー向け:
- 初値売り抜けを狙うのも一案(大型案件は初値高騰しにくい)
- ただし、公開価格割れのリスクも織り込んでおく
ウォッチリスト入れ推奨:
- 上場後1-3ヶ月は需給が落ち着くまで様子見
- 四半期決算を見て、成長性・収益性を再評価
- 1,100円程度まで下がれば割安感が出てきそう
総合評価: ビジネスモデルは非常に優れており、長期的には配当狙いも狙えると思います。ただ、初値と言う意味ではやや重そうなので評価Bとしました。
用語集
- 家賃債務保証:入居者の連帯保証人の代わりとして、保証会社が家賃支払いを保証するサービス
- 代位弁済:入居者が家賃を滞納した際、保証会社が代わりに支払うこと
- ストック収益:一度契約を獲得すれば継続的に収益が発生するビジネスモデル
- LTV(顧客生涯価値):1顧客が契約期間中に支払う総額
- PER:株価収益率。株価 ÷ 1株利益
- PSR:株価売上高倍率。時価総額 ÷ 売上高
- ROE:自己資本利益率。純利益 ÷ 自己資本
- OA(オーバーアロットメント):需要が多い場合に追加で売り出す株式
- ロックアップ:上場後一定期間、大株主が株式を売却できない制度



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